衛生管理者は、工場や会社などの労働環境をより良いものにするために必要な役職です。法律によって設置義務があるため、当てはまる会社等は必ず衛生管理者を置かなければなりません。衛生管理者を求めている会社はたくさんあるので、資格を取得すれば、就職や転職に有利な立場になるでしょう。しかし、資格取得のためには、実務経験など受験資格をクリアしなければなりません。本記事では、そんな衛生管理者の設置義務や資格について詳しく説明します。
この記事を読むことで、衛生管理者の設置義務や資格取得の方法などが分かります。気になっている方はぜひチェックしてください。
1.衛生管理者の主な職務やメリットは?
まずは、衛生管理者がどのような資格なのか基礎を押さえておきましょう。また、主な職務や資格取得のメリットについても説明します。
1-1.衛生管理者は国家資格の一種
衛生管理者は国家資格の1つで、事業場の労働衛生全般の管理を行います。労働条件や労働環境の衛生的改善、疾病の予防処置などを担当する大切な役割です。多くの労働者が働いている現場では、どのような問題が起こるか分かりません。特に、近年は、過労死やブラック企業など悪いニュースをよく聞きます。これらの改善と対策を行うのが、衛生管理者の重要な役目なのです。主に、労働者の健康障害防止や健康の保持増進に関する事項を担当することになります。
1-2.衛生管理者は3種類の資格種類がある
衛生工学衛生管理者・第1種衛生管理者・第2種衛生管理者と、衛生管理者の資格には3種類があります。それぞれの違いは、設置義務の業種です。そのため、働きたい職場が明確になっている方は、その業種の選任が可能な資格を選び取得する必要があります。具体的な業種に関しては、後ほど【2-3.資格種類によって設置業種が異なる】にて説明するので、ぜひチェックしてください。
1-3.衛生管理者の主な職務は4つ
衛生管理者の主な職務は、以下の4点です。
- 労働者の危険または健康障害を防止するための措置に関すること
- 労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること
- 健康診断の実施、そのほかの健康の保持増進のための措置に関すること
- 労働災害防止の原因の調査および再発防止対策に関すること
以上のうち、衛生に関する技術的事項の管理を行います。衛生管理者の仕事は多岐にわたりますが、いかに労働者が働きやすい環境にできるかが大きな仕事です。また、作業方法または衛生状態に有害の恐れがあるときは、すぐに労働者の健康を守るための措置を講じなければなりません。
1-4.資格を取得すると就職・転職に有利
衛生管理者の資格を取得すると、転職・就職に有利な状況となります。なぜなら、過労死や残業未払いなどの問題が注目され、社会的ニーズが高まってきているからです。衛生管理者の資格取得者を欲しがっている企業はたくさんあるため、就職には困りません。また、現在は衛生管理者の人数が不足しているといわれています。就職だけでなくキャリアアップにもつながるでしょう。衛生管理者としての経験を積めば積むほど、大きい企業で働くことができます。
2.衛生管理者の設置義務は?
では、衛生管理者として働くために知っておきたい設置義務について説明しましょう。
2-1.設置義務の決まりごと
衛生管理者は、労働安全衛生法第12条に基づき、「すべての業種において常時50人以上の労働者を使用する事業場」において選任が義務づけられています。ちなみに、上記の「事業場」とは、同じ場所で相関連する組織的な作業ができる場所の単位になるため、同じ会社でも支店・支社・店舗ごとに1事業場という計算です。ここは、重要なポイントなので注意してくださいね。
2-2.設置人数は従業員数によって異なる
常時50人以上の事業場が選任義務の条件ですが、従業員の人数によって衛生管理者の設置人数も変わります。事業場の規模が大きくなるほど、衛生管理者の人数も増やしていかなければなりません。以下に、労働者数にあわせた衛生管理者の数をピックアップしたので参考にしてください。
- 50人以上~200人以下:衛生管理者1人
- 201人以上~500人以下:衛生管理者2人
- 501人以上~1,000人以下:衛生管理者3人
- 1,001人以上~2,000人以下:衛生管理者4人
- 2,001人以上~3,000人以下:衛生管理者5人
- 3,001人以上:衛生管理者6人
2-3.資格種類によって設置業種が異なる
前述したとおり、衛生工学衛生管理者・第1種衛生管理者・第2種衛生管理者それぞれの資格で、選任すべき業種が異なります。基本的に農林地区水産業・鉱業・建設業・有害業務事業場など、幅広い業種にて設置義務があるのは衛生工学衛生管理者だけです。
また、衛生工学衛生管理者がほかに選任されている場合に限り、有害業務事業場に衛生管理者を設置しなければなりません。有害業務事業場においては、衛生管理者単独での選任ができないことになっています。
さらに、第2種衛生管理者の免許だけを持っている方は、農林畜水産業や製造業等の衛生管理者に選任されないので注意が必要です。以下に、業種に応じた資格をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
農林畜水産業・鉱業・建設業・製造業・電気業・ガス業・水道業・熱供給業・運送業・自動車整備業・機械修理業・医療業及び清掃業
- 第一種衛生管理者免許若しくは衛生工学衛生管理者免許又は医師
- 歯科医師
- 労働衛生コンサルタント
- 厚生労働大臣の定める者
その他の業種
- 第一種衛生管理者免許
- 第二種衛生管理者免許
- 衛生工学衛生管理者免許
- 医師
- 歯科医師
- 労働衛生コンサルタント
- その他厚生労働大臣が定める者
2-4.衛生管理者を選任するのは事業場の責任者
衛生管理者の選任は、事業場の責任者が行います。基本的に、衛生管理者を選任すべき理由が発生した日から14日以内に行わなければなりません。また、衛生管理者を選任したときは、遅滞なく、選任報告書を所轄労働基準監督署長への提出が義務づけられています。
3.衛生管理者の資格取得方法は?
では、衛生管理者の資格を取得するためには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、具体的な取得方法と勉強法などについて解説します。
3-1.業種に応じた資格を選ぶこと
まず押さえておきたいのは、業種に応じた資格を選ぶことです。幅広い業種の衛生管理者として働きたい方は、第2種よりも第1種を取得したほうがいいでしょう。もともと、衛生管理者は社会的ニーズが高まってきている資格ですが、第2種は選任業種が限られているので需要は低めです。自分が就きたい業種を明確にしてから、資格試験を受けることをおすすめします。
3-2.資格の取得方法は?
衛生管理者の資格を取得するためには、受験資格を満たす必要があります。ここでは、受験資格・試験内容を詳しく解説しましょう。
3-2-1.受験資格
衛生管理者の受験資格は、全部で15項目あります。いずれかを満たせば受験できますが、実務経験があるので注意が必要です。以下に、代表的な受験資格をピックアップしてみました。
- 学校教育法による大学(短期大学を含む)または高等専門学校を卒業した者で、その後1年以上労働衛生の実務に従事た経験を有する者
- 大学評価・学位授与機構により学士の学位を授与された者で、その後1年以上労働衛生の実務に従事した経験を有する者
- 省庁大学校を卒業(修了)した者でその後1年以上労働衛生の実務に従事した経験を有する者
- 学校教育法による高等学校又は中等教育学校を卒業した者で、その後3年以上労働衛生の実務に従事した経験を有する者
詳細は、試験を行っている安全衛生技術試験協会のホームページを確認してください。
3-2-2.試験内容
衛生管理者の試験は、資格種類によって異なります。それぞれの資格の試験内容は、以下のとおりです。
第一種(第二種衛生管理者免許を受けていない場合または同免許を受けているが一部科目免除を希望しない場合)
- 労働衛生(有害業務に係るもの)
- 労働衛生(有害業務に係るもの以外のもの)
- 労働生理
- 関係法令(有害業務に係るもの)
- 関係法令(有害業務に係るもの以外のもの)
特例第一種(第二種衛生管理者免許を受けていて一部科目免除を希望する場合)
- 労働衛生(有害業務に係るものに限る)
- 関係法令(有害業務に係るものに限る)
第二種
- 労働衛生(有害業務に係るものを除く)
- 労働生理
- 関係法令(有害業務に係るものを除く)
また、合格基準は、試験科目ごとに40%以上、全体の合計点が60%以上獲得となっています。
3-3.おすすめの勉強法は通信講座
仕事をしながら資格取得を目指す方がほとんどですが、仕事と勉強の両立はなかなか大変なことです。独学・スクール通学とさまざまな勉強法がある中、通信講座は、自分の好きな時間に勉強できると好評で、仕事と勉強の両立に向いているでしょう。独学は分からないところを自分で解決し、スクール通学は授業時間に合わせなければなりません。しかし、通信講座は担当の先生にメールで聞いたり、DVDで学習したりすることができます。ぜひいろいろな通信講座をチェックしてみてはいかがでしょうか。
3-4.毎日コツコツと勉強を続けることが大切
衛生管理者の資格を取得するため、何よりも大切なことは毎日コツコツと勉強を続けることです。受験者の中には、休日を丸ごと使って1日中勉強に充てる方がいます。しかし、1週間に何日か決めて勉強するよりも。毎日数十分でも勉強に充てたほうが必要な内容を覚えることができるのです。通勤時間でもいいので、テキストを開き勉強する習慣を身につけてください。
4.衛生管理者に関してよくある質問
衛生管理者に関してよくある質問を5つピックアップしてみました。
Q.専任の衛生管理者を選ぶ事業場の条件は?
A.業種にかかわらず、常時1,000人以上の従業員がいる事業場は、衛生管理者のうち1人を専任の衛生管理者にすることが義務づけられています。また、常時500人以上の労働者がいる事業場で一定の有害業務に携わるところも、専任の衛生管理者が必要です。
Q.定期巡視の具体的な仕事内容は?
A.少なくとも毎週1回作業場を巡視し、設備・作業方法・衛生状態に有害があるかチェックすることです。衛生管理者は常に労働環境や労働者たちを観察し、異変がないか確認しなければなりません。定期巡視をきちんと行うことで、トラブルや問題を未然に防ぐことができます。定期巡視も衛生管理者の大切な仕事の1つです。
Q.衛生管理者に選任されるほかの有資格者は?
A.医師または歯科医師・労働衛生コンサルタント・教員職員免許法に基づく保健体育の免許所持者などです。特に、労働コンサルタントは衛生管理者よりも上位資格になるため、衛生管理者の資格を取得した後に、目指す方が増えていますよ。
Q.衛生管理者を選任しないとどうなるのか?
A.労働安全衛生法第12条に基づき、違反した場合は50万円以下の罰金が科せられることになります。法律違反とみなされるので、十分に注意しなければなりません。
Q.衛生管理者の勉強のポイントは?
A.毎日勉強を続けることも大切ですが、テキストを何度も読み返すことが重要です。複数のテキストを読み込んだほうがいいと思う方が多いでしょう。しかし、それでは、試験の重要なポイントが暗記できません。1冊のテキストを何度も読み直す→問題を解く→間違えた箇所を復習するという流れをくり返していけば、合格基準の科目正解率60%以上になります。仕事が忙しくて勉強時間が不足がちな人は、最低でも半年前から勉強を始めたほうがいいでしょう。
まとめ
いかがでしたか? 衛生管理者は、労働者を健康被害から守るため、より良い職場環境を作る大切な役職です。労働基準法によって設置義務があり、従業員の人数にあわせて衛生管理者を必要数設置しなければなりません。設置義務を怠ると法律違反として、罰則が科せられることになります。そのため、事業者は必ず衛生管理者の設置義務を把握しておかなければなりません。また、資格を取得すれば、幅広い職場で役立てることができるでしょう。取得のメリットはたくさんあるので、気になる方は資格試験に向けて勉強を始めてください。