衛生管理者が学校で果たすべき役割は? 資格取得方法についても解説

学校における労働安全衛生管理体は改善されつつありますが、いまだ不十分な状態です。特に、小・中学校では衛生管理が低い水準となっています。学校における労働安全衛生管理推進のためには、衛生管理者が必要不可欠です。そこで、本記事では、衛生管理者の主な業務や、学校における労働安全衛生管理体制の改善策などについて解説します。

  1. 学校における衛生管理者は教員の労働環境改善を担う
  2. 学校における労働安全衛生管理体制の改善策
  3. 衛生管理者の資格取得方法は?
  4. 衛生管理者に関してよくある質問

この記事を読むことで、学校における衛生管理者の役割や資格取得の方法などが分かります。受験を考えている方もぜひチェックしてください。

1.学校における衛生管理者は教員の労働環境の改善を担う

衛生管理者は労働安全衛生法に基づき、労働条件・労働環境の衛生的改善と疫病の予防処理等を行う大切な役割を担っています。さまざまな場所で活躍する資格ですが、ここでは、学校における役割に注目し説明していきましょう。

1-1.教職員が教育活動に専念できるための環境づくり

学校は子どもたちが必要な教育を学ぶべき場所ですが、教育を行うのは教職員です。教職員が教育活動に専念できるよう、よりよい環境づくりに努めるのが学校における衛生管理者の役割となります。教育活動に専念できる労働環境を確保し維持することができれば、学校教育全体の質が向上するでしょう。学校で子どもたちにさまざまな問題が起きているのは、教職員が教育活動に専念できない職場になっているからでもあるのです。

1-2.教職員の人手不足・長時間勤務の深刻化

現在の日本は、教職員の人手不足に悩まされています。その結果、長時間勤務につながっているのです。教員不足の大きな要因の1つには、臨時採用の教員確保が難しいという問題があります。病気や産休などで欠員が生じた場合、補充のための臨時採用の職員が確保できないので、教職員1人あたりの負担が増えてしまうのです。長時間勤務が続くと体調も不安定になり、充実した教育ができなくなる悪循環が生まれてしまうでしょう。

1-3.労働衛生の専門家として問題を改善する

学校における衛生管理者は、「衛生に係る技術的事項を管理する」ことが主な業務となります。代表的な仕事内容は以下のとおりです。

  • 少なくとも週1回学校を巡回し、空調設備などの施設・設備、温度・採光などの 環境衛生、教職員の勤務実態等を点検する。問題があるときは所要の措置も必要
  • 上記の措置等について、月1回の衛生委員会で報告する
  • 健康診断等の結果を踏まえ、心身両面にわたる健康指導を実施するなど、教職員の健康管理を行う
  • 問題等が発生した場合は、産業医等との意見交換を行う

学校は教職員全員のチームワークが必要となる職場なので、衛生管理者も教職員の健康管理等を行う産業医とのやり取りが重要です。また、衛生に関する重要事項について調査審議する機関「衛生委員会」もしっかりと機能させていかなければなりません。問題点は全員で解決しようとする姿勢が大切です。

1-4.教職員50人以上の学校で選任しなければならない

基本的に、衛生管理者は、教職員が50人以上の学校で選任しなければなりません。法律によって選任が義務づけられているので絶対事項です。また、教職員10~49人の学校は、衛生に係る業務を担当する衛生推進者の設置が必要となります。衛生推進者は、学校を巡回したり、教職員の勤務実態等を点検したりする役職です。

1-5.労働安全衛生管理体制の整備が進められている

小中学校における労働安全衛生管理体制が必要といわれている中、管理体制の整備が進められています。整備を行うためには、まず体制整備が進まない原因を把握することが大切です。その原因には、有資格者の不在や関係法令等の認識不足・財政的な事情などが重なっています。現場の意識改革を高めていき、教育員会や管理職のリーダーシップを復活させ、既存の人材と組織の有効活用が必要になるでしょう。どうすれば、労働安全衛生管理体制が改善できるのか、現在の問題点を知るところからスタートします。

2.学校における労働安全衛生管理体制の改善策

では、具体的にどのような改善策があるのでしょうか。現状や問題点を把握し、今現在の取り組みと今後に取り組むべき内容もチェックしてください。

2-1.全国的に有資格者を選任している学校が少ない

文部科学省が1993年に発表した調査結果によると、50人以上の学校での衛生管理者は全体の約63%しか選任されていませんでした。約25年前の資料なので、現在は多少選任率がアップしているかもしれませんが、未だ衛生管理者の設置が整っていない状況なのです。また、衛生委員会の設置率も低く、職場づくりについて協議し合う機会ができていません。衛生管理に詳しい有資格者がいなければ、改善すべき環境もどんどん悪化してしまいます。

2-2.問題点は山積み

学校における労働安全衛生体制に係る問題点はたくさんあります。主な問題点をいくつかピックアップしたので、ぜひ参考にしてください。

  • 衛生管理者や衛生推進者が選任していても活動が伴っていない
  • 養護教諭や教頭を衛生管理者または衛生推進者に選任している
  • 市町レベルでの研修会等が実施されていない
  • 学校の忙しさと相まって、定期的に衛生委員会が開催できていない
  • 学校の環境整備を有資格者ではなく、教員が担当している
  • 衛生委員会が開催されても十分な内容について吟味されていない
  • 職員の中で、環境整備に対する意識が薄まっている

2-3.今までの取り組みは形だけのもの

問題点をいくつか振り返ってみると、まだまだそこからさらに新たな問題が出てくるようです。学校における労働安全衛生体制を確立させるために、衛生管理委員会を設置する学校もありましたが、ほとんどが中身のないものとなっています。ただ、衛生管理者を選任したり、委員会を設置したりするだけで、形だけの体制を作ってきただけなのです。これからは、中身のある取り組みを実施していかなければなりません。

2-4.今後は決まりを浸透させることから始める

前述したとおり、学校における労働安全衛生体制を整備するためには、そこで働く人たちの意思統一が必要不可欠となります。職員会で労働安全衛生法の学習を深め、全員で決まりを共有させていきましょう。衛生管理者を教員でない立場から選任し、安全衛生推進委員会を設置します。そして、原則として月1回必ず開催できる日を決め、以下のような内容について協議してください。

  • 職場の施設・設備の点検及びこれらの結果に基づく必要な措置に関すること
  • 快適な職場環境の形成のための問題点及び必要な措置に関すること
  • 健康の保持増進のための措置に関すること
  • 安全衛生教育に関すること
  • 労働災害の実態把握及び再発防止に関すること
  • その他、職員の安全及び衛生に関すること

きちんとルールを決めて全員が意思統一を図れば、自然と労働環境への意識も高まります。また、定期的な健康診断や面接指導・心理的な負担を把握するための検査(ストレスチェック)など、教職員の健康管理体制も必要です。

3.衛生管理者の資格取得方法は?

ここでは、衛生管理者の資格取得方法とポイントなどを解説します。

3-1.資格取得のメリットは?

衛生管理者の資格を取得すると、たくさんのメリットが生まれるでしょう。

3-1-1.資格手当がもらえる

給与面におけるメリットといえば、資格手当がもらえることです。金額は職場で大きく異なりますが、学校における衛生管理者も資格手当をもらうことができます。基本給に加え、毎月支給されるので給与面のアップにつながるでしょう。

3-1-2.就職・転職に役立つ

資格を取得すると、就職・転職に役立ち、有利な立場になることは間違いありません。衛生管理者は法律によって、選任義務が定められています。常時50人以上の教職員がいる学校では、必ず選任しなければなりません。そのため、多くの職場が有資格者を採用します。

3-1-3.キャリアアップを目指す女性に人気

キャリアアップを目指す女性にとって、衛生管理者という資格は相性のいい資格です。衛生管理者は男女関係なく働けるもので、体力もそれほど必要ありません。むしろ、学校における衛生管理者は女性に向いているという声もたくさんあがっています。その理由には、女性教員が気軽に相談できたり、産休など休暇取得の悩みを打ち明けたりしやすいという背景があるようです。

3-2.受験資格が細かく定められている

衛生管理者は選任できる業種によって、衛生工学衛生管理者・第一種・第二種に分けられています。どちらとも受験資格が細かく決められているので注意が必要です。代表的な受験資格は以下のとおりとなります。

  1. 大学または高等専門学校(短大を含む)を卒業し、労働衛生の実務経験が1年以上ある
  2. 高等学校を卒業し、労働衛生の実務経験が3年以上ある
  3. 労働衛生の実務経験が10年以上ある

また、受験資格の照明として、事業者証明書を受験申請書と一緒に提出しなければなりません。詳細は、試験の主催者となる公益財団法人 安全衛生技術試験協会のページをご覧ください。

3-3.試験内容は資格種類によってバラバラ

衛生管理者の試験内容は、第一種・第二種ともに、以下の3つの範囲から出題されます。

<第一種>

  • 関係法令:17問
  • 労働衛生:17問
  • 労働生理:10問

<第二種>

  • 関係法令:10問
  • 労働衛生:10問
  • 労働生理:10問

3-4.難易度はそこまで高くない

衛生管理者は難易度が高いと思われがちですが、近年の合格率を見てみると第一種が約45%、第二種が約55%です。国家試験の基準でいうと、「易しい」レベルとなります。受験資格に実務経験が含まれているため、自分が経験した内容をもとに適切な回答ができるのです。きちんと勉強を続けていけば、合格できる範囲内でしょう。

3-5.おすすめの勉強法はライフスタイルに合ったもの

主な勉強法には、独学・スクール通学・通信講座と3つの方法があります。重要なのはライフスタイルに合った方法で勉強を続けることです。試験問題がやや易しい内容だとしても、基礎知識をしっかりと身につけ理解する力が必要になるでしょう。毎日コツコツ勉強を続けることで、必要な知識がインプットできます。

4.衛生管理者に関してよくある質問

衛生管理者に関する質問を5つピックアップしてみました。

Q.小中学校の衛生管理整備率をアップさせるポイントは?
A.市町村の教育委員会をはじめとした早急な対応がポイントです。小中学校における衛生管理体制の整備状況が著しく低下しているため、なるべく早めに体制整備を整え、問題点をピックアップし改善策を実践していかなければなりません。職場全体で協力すれば、適切な労働環境の確保がしやすくなります。

Q.文部科学省が実施している取り組みは?
A.公立学校における労働安全衛生管理体制に関する調査などを行っています。調査の結果を各都道府県に通知することで、体制整備を促進させているのです。通知だけでなく、直接指導したり、啓発資料の作成をしたりしています。

Q.職場環境の具体的な改善例は?
A.すべての小中学校に事務室を設置する・勤務時間の短縮を関係機関に働きかける・労働安全衛生要網を制定するなど、さまざまな改善策があります。適切な改善策を実施するためには、いま抱えている問題点を明確にしなければなりません。職場を観察するだけでなく、直接教員から話を聞くことも大切でしょう。

Q.ストレスチェック制度とは?
A.平成27年12月1日より義務づけられた制度のことです。医師等による教職員の心理的な負担を把握し、軽減することを目的としています。ストレスチェックは年に1回実施することが、学校の設置者に義務づけられているのです。高ストレスであると判断された教職員は、医師による面接指導を実施する必要があるでしょう。

Q.衛生管理者の第一種・第二種の違いは?
A.第一種はすべての業種が選任対象となりますが、第二種は、有害業務と関連の少ない情報通信業・金融・保険・小売業など一定の業種だけで選任を受けられます。第一種と第二種の違いは、有害業務に関わるか否かです。学校法人は、第一種でなくても第二種の有資格者で選任されます。

まとめ

学校における衛生管理者は、近年、その必要性が注目されています。親からのハラスメントやいじめ問題など、子どもたちに関わる問題はすべて教師へ責任を問われることになるでしょう。そのため、プレッシャーを感じる教員が多く、労働環境や衛生面に大きな悪影響をおよぼしがちです。そういうときこそ、より良い環境へと改善する衛生管理者の力の見せどころでしょう。学校における衛生管理者の役割を把握することが大切です。

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